学会の環境教育と未来の学び
2017・18年度の会長としての抱負

諏訪 哲郎

アメリカのトランプ政権が、2020年以降の地球温暖化対策の枠組みを定めたパリ協定からの離脱を決定した。このことに象徴されるように、地球環境問題に対する国際的な取り組みが、「自国第一主義」に脅かされている。生態的、社会的な持続可能性の追求はますます困難な課題となりつつある。このような逆境にあるがゆえに、教育の役割がより一層重要になっている。法人化した日本環境教育学会がこれから何をなすべきか。しっかりと会員の声に耳を傾けつつ、学会に求められる役割を見定め、新たな気持ちで、その前進に努力していきたい。

小学校では2020年度から実施に移される学習指導要領が2017年3月末に公示された。初めての試みである前文には、「持続可能な社会」「社会に開かれた教育課程」が盛り込まれ、総則の最初の方には「アクティブ・ラーニング」が言い換えられた「主体的・対話的で深い学び」が記載された。全体としては「資質・能力」の強調が際立っているが、未来の教育に向けた第一歩を踏み出したという意味では評価できるととらえている。

国家が有意な人材を大量に育てることを目的として、公費によって学校を運営する近代公教育制度が始まったのは19世紀の後半である。それから約150年が経過し、産業構造の大転換やグローバル化、情報化といった社会の大きな変化の中で、世界中の教育が大きな転換をしようとしている。日本では過去半世紀近く、「生きる力」や「資質・能力」といった、教育を受ける側の求める「個人の価値向上」に寄り添う形で改革が進められてきた。

しかし、教育の目的として、国家志向と個人志向の二つのベクトルとは別の、もう一つの重要なベクトルが登場し、重視されるようになってきた。それが持続可能な社会を志向するベクトルである。日本の場合は、特に少子高齢化による人口減少によって地域社会が存続の危機に直面しており、持続可能な社会の構築を目標とする教育の重要性はますます増大する。発達障害、不登校、引きこもり等々への対応として、「ケア」を重視する動きも出てきている。

今起き始めているのは、教育目標、教育方法、教育内容から指導者や教育の場の在り方をも含めた教育システム全体の転換であって、独断で命名するならば、19世紀の国民国家型教育システムから近未来以降の持続可能社会型教育システムへの移行といえる。ただし、教育をめぐっても様々な抵抗勢力が、新しい、より好ましい方向への移行を阻止しようとするために、すんなりと持続可能な社会を志向するベクトルに向けて動き出すわけではない。

このような教育システムの大転換の中で、日本環境教育学会にはどのような役割を果たすことが求められているのであろうか。どのような研究・実践を目指すべきであろうか。個々の学会員から様々な動きや声が出てくることも期待しているが、学会執行部としてもどのような活動や事業が有効であるかを見極めて、持続可能社会型教育システムへの移行に資する運営を進めたいと考えている。

現段階で、これからの2年間、会長として特に力を入れていきたいと思っている二つのことを最後に述べておきたい。いずれも「つなぐ」ということに関わるが、一つ目が「地域」と「学校教育」をつなぐ研究・実践の一層の強化、そして二つ目が、持続可能性を志向するほかの団体と本学会との連携強化である。それらがはっきりと見える形で実現されるように、努力するつもりである。 

 

 

 (すわ てつお/学会長・学習院大学)

 

(環境教育ニュースレター 117号 p.2 掲載)